傷病手当金と失業手当は「どっちが先」?順番で総額が変わる理由

傷病手当金と失業手当は、同時に受け取ることができません。制度の前提が正反対だからです。
受け取る順番は、傷病手当金が先、失業手当が後です。この順番を守るかどうかで、受け取れる総額が数百万円変わることがあります。
- 2つの給付を同時に受け取れない理由
- 順番を間違えたときに失う金額の具体例
- 正しい順番で受け取るために必要な手続き
退職後に受け取れるお金として、傷病手当金と失業手当があります。どちらも知っている方は多いのですが、「両方もらえるのか」「どちらが先なのか」という点でつまずく方が非常に多いところです。
結論は冒頭のとおりですが、問題は順番を間違えたときに取り返しがつかないという点です。この記事では、なぜそうなるのかを制度の仕組みから説明し、具体的な金額で比較します。
なぜ同時に受け取れないのか
理由は単純で、2つの給付が前提としている状態が正反対だからです。
| 傷病手当金 | 失業手当(基本手当) | |
|---|---|---|
| 前提となる状態 | 働けない (療養のため労務不能) |
働ける (就労可能かつ求職中) |
| 制度の目的 | 療養中の生活を支える | 再就職までの生活を支える |
| 財源 | 健康保険 | 雇用保険 |
| 窓口 | 健康保険の保険者 | ハローワーク |
傷病手当金は「働けないから支給する」給付、失業手当は「働けるのに仕事がないから支給する」給付です。同じ人が同じ時期に、両方の状態であることはありえません。
ハローワークへ行った時点で、傷病手当金は終わります
ここが実務上、最も重要なポイントです。
ハローワークで求職の申込みをするということは、「働ける状態です」と表明することを意味します。その時点で労務可能とみなされ、傷病手当金は終了します。基本手当の要件はハローワークインターネットサービスで確認できます。
在職中であれば、いったん復職して再び体調を崩しても、通算1年6か月の枠内で支給を再開できます。
しかし退職後の継続給付は、一度労務可能な状態になると、その後ふたたび働けなくなっても再開されません。ここが在職中との決定的な違いです。
順番を間違えると、いくら変わるのか
具体的な数字で見てみます。
35歳・月収30万円・雇用保険の加入5年・自己都合退職・療養が必要な状態という方を例にします。
通算1年6か月・月約20万円
90日・日額約6,208円
この時点で傷病手当金は終了
90日・日額約6,208円
※ 標準報酬月額30万円で試算した目安です。実際の金額は個々の状況により異なります。
差額は傷病手当金の18か月分がまるごと消えることによるものです。金額の大きさもさることながら、問題はあとから取り返せないという点にあります。
「体調は悪いけれど、とりあえずハローワークで手続きしておこう」という判断が、この差を生みます。悪気なく、むしろ真面目に手続きを進めようとした結果として起こるところが、この制度の難しさです。
ご自身の場合にいくらになるかは、受給シミュレーターで確認できます。月収と退職予定日を入れるだけで、両方を合わせた見込み額と受給スケジュールが表示されます。
正しい順番と、その前提になる手続き
正しい順番は次のとおりです。
この流れのなかで、STEP 3が抜けると全体が成立しません。次の章で詳しく説明します。
受給期間の延長|これがないと成立しません
失業手当を受け取れる期間は、原則として離職日の翌日から1年間です。
ここで問題が起きます。傷病手当金は最長1年6か月受け取れますが、その間に失業手当の1年が過ぎてしまうのです。
| 手続き | 結果 |
|---|---|
| 延長しなかった場合 | 療養が1年を超えた時点で、失業手当の受給期間が終了。 所定給付日数が残っていても受け取れません。 |
| 延長した場合 | 受給期間を最長4年まで延ばせます。 回復後にあらためて失業手当を受け取れます。 |
延長できる条件と期間
病気やケガ、妊娠・出産・育児、家族の介護などの理由で30日以上働けない状態が続いた場合、受給期間を最大3年間延長できます。本来の1年と合わせて、最長4年です。
申請には期限があります
働けない状態が30日を過ぎた日の翌日から申請できます。
傷病手当金を受け取っているあいだは生活が成り立っているため、失業手当のことを考える余裕がありません。気づいたときには期間が過ぎていた、というケースが起こりやすいところです。
延長の申請は「働けない状態が続いていること」を理由に行うものです。療養に専念している時期こそ、この手続きが必要になります。
実際の流れを時系列で見る
35歳・月収30万円・自己都合退職の方が、うつ症状で療養が必要になったケースで見てみます。
| 時期 | すること | 受け取るもの |
|---|---|---|
| 在職中 | 心療内科を受診し、医師の判断を受ける | — |
| 休業開始 | 連続3日の待期を満たす | 4日目から傷病手当金 |
| 退職日 | 労務不能の状態が続いている | 継続給付の要件を満たす |
| 退職後1か月 | 受給期間の延長を申請 | 傷病手当金 月約20万円 |
| 退職後〜18か月 | 療養に専念しながら毎月申請 | 傷病手当金 累計約360万円 |
| 回復後 | 医師の判断を受け、ハローワークへ | 失業手当 90日 約56万円 |
| 合計 | — | 約416万円 |
この流れのすべての段階で、判断を誤ると総額が下がります。とくに退職日までの部分は、あとから修正できません。
月収と退職予定日を入れるだけで、傷病手当金と失業手当を合わせた見込み額と、受給スケジュールが分かります。
入力は30秒、登録も費用もかかりません。
※ 試算です。実際の支給は各窓口の審査により決まります
よくある質問
退職後は戻れません。求職の申込みをした時点で労務可能とみなされ、継続給付は終了します。一度終了すると、その後ふたたび働けなくなっても再開されません。
できます。受給期間の延長は「働けない状態が続いていること」を理由に行う手続きで、傷病手当金の受給とは別のものです。むしろ療養中だからこそ必要になります。
受け取れます。傷病手当金は退職理由を問いません。
失業手当については、自己都合の場合に給付制限がありますが、療養によって受給が後ろにずれるため、実質的な影響は小さくなることが多いです。また、体調不良を理由とする退職では「特定理由離職者」に該当し、給付制限がなくなる場合があります。
退職日が決まる前が最も選択肢が多い時期です。退職後の相談でも対応できる部分はありますが、在職中にしか満たせない要件があるため、早い段階のほうが取りこぼしが少なくなります。
減りません。所定給付日数は、年齢・雇用保険の加入期間・退職理由によって決まるもので、傷病手当金の受給とは無関係です。受給期間さえ延長しておけば、満額を受け取れます。
まとめ
- 傷病手当金と失業手当は、前提となる状態が正反対のため同時に受け取れません
- 順番は傷病手当金が先、失業手当が後です
- ハローワークで求職の申込みをした時点で、傷病手当金は終了します。退職後は再開できません
- 正しい順番で受け取るには、失業手当の受給期間を延長する手続きが必須です
- 順番の違いで、受け取れる総額が数百万円変わることがあります
制度そのものは公開されていますが、「どちらが先か」は、どこにも大きく書かれていません。それぞれの窓口は、それぞれの制度のことしか案内しないためです。
順番と期限さえ押さえておけば、受け取れるはずのものを取りこぼさずに済みます。判断に迷う場合や、退職日が決まっていてお急ぎの場合は、一度ご相談ください。確認だけでも承ります。
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)|傷病手当金の要件・申請書類
- ハローワークインターネットサービス|基本手当・受給期間の延長
- 厚生労働省|雇用保険制度の概要
本記事は制度の一般的な説明です。実際の支給の可否・金額・期間は、加入先の健康保険の保険者およびハローワークの審査により決定されます。当社が受給を保証するものではありません。
当サービスは民間の相談サポートであり、公的機関ではありません。また、症状のない方に受診をおすすめするものではありません。
本記事に記載の金額・給付日数などの数値は、令和7年8月1日時点のものです。制度改正により変更される場合があります。
※本記事は制度の一般的な説明です。個別の可否・金額は、健康保険の保険者およびハローワークの審査により決定されます。記事内容は公開時点の情報にもとづきます。